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岡山地方裁判所 平成8年(行ウ)14号 判決 1997年5月13日

原告

株式会社エンゼル

右代表者代表取締役

鍋島英夫

被告

岡山県津山地方振興局長 西村一夫

右訴訟代理人弁護士

片山邦宏

理由

一  請求原因

請求原因事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁

抗弁のうち、組合は原告ら津山市内の中小企業二六社が昭和五〇年一一月に中小企業等協同組合法に基づいて設立したものであること、組合が平成四年一二月二二日本件各不動産について鍋島和子に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を行ったことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に加えて、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

原告ら津山市の企業二六社は、昭和五〇年一一月、中小企業等協同組合法に基づき、組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする組合を設立してその組合員となり、組合は、津山市小田中地区における組合員の従業員の用に供する土地の取得、宅地の造成及び住宅の建設等並びに組合員に対する事業資金の貸付及び組合員のためにするその借入れなどの事業を行うこととなった。

組合は、組合員を通じてその従業員に提供するために津山市小田中地区に四九区画の宅地及びその地上建物を取得し、組合員を通じてその従業員に対して右土地建物取得のための資金を融資するための原資として、昭和五四年三月年金福祉事業団から三億三二〇〇万円を一八年間の半年毎の元利均等償還の方法による返済を約し、同年六月株式会社中国銀行から三三〇〇万円を一〇年間の半年毎の元利均等償還の方法による返済を約してそれぞれ借り入れ、右両貸し主のため右四九区画の土地建物に抵当権を設定した。

右組合による借入金は、組合から組合員に対し、組合が年金福祉事業団等から借り入れたのと同様の条件で貸し付け、右貸付金は、組合員から土地建物を取得する予定の従業員に対して更に貸し付け、返済については、毎月その従業員が組合員へ償還し、これを組合員が組合に償還し、更にこれを組合が年金福祉事業団等へ償還する仕組みがとれることとなった。

組合は、昭和五四年六月頃、組合員に右四九区画の土地建物を割り当て、組合から組合員に対して売の渡す(但し、前記貸付金の償還を担保するため、完済まで土地建物の所有権は組合員に留保し、他への譲渡を禁止する)旨の不動産譲渡予約契約を締結した。

その一環として、原告は、組合から前記四九区画のうち二区画の土地建物である本件各不動産の割当を受け、原告の役員である鍋島和子に取得させることを予定し、組合との間で、昭和五四年六月二七日、組合から原告に対して別紙目録一の土地を代金四二二万六九六二円、同目録二の建物を代金六七三万一四二七円、同目録三1、2の土地を代金四五二万八九〇二円、同目録四の建物を代金六六六万三三一四円で売り渡し、原告から組合に対して右各代金を一八年間の月賦で支払い、右完済のときに組合から原告へ右各不動産の所有権を移転する旨の不動産譲渡予約契約を締結した。右売買に関する組合からの融資金の返済については、右各不動産の取得を予定している鍋島和子に指示して、毎月原告の組合への償還金相当額を原告に対して支払わせ、原告はこれを組合に償還していた。

組合は、平成四年一〇月三一日開催の臨時組合員総会において、組合を解散し、清算業務に入り、借入金の繰上償還を行い、土地建物の所有権を償還者に移転する旨の決議をした。

平成四年一一月一〇日、組合から原告宛に、借入金の一括償還及び組合員又はその指定する者に対する土地建物の所有権移転登記手続を行う旨の文書が送付され、これに応じて、原告は、本件各不動産についていずれも鍋島和子にその所有権の移転登記手続をするように組合に申し出た。その後、同年一二月二一日、原告の指示により鍋島和子が原告の組合からの借入残金額を組合銀行預金口座に振り込む形で繰上償還がなされ、右各不動産については、いずれも平成四年一二月二二日受付による真正な登記名義の回復を原因とする鍋島和子に対する所有権移転登記が経由された。

以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、本件各不動産は、組合が実施した組合員の従業員の用に供する土地の取得、宅地の造成及び住宅の建設等の事業の一環として、売買代金を融資の上、組合から組合員である原告に売り渡され、原告は右各不動産を原告の役員である鍋島和子に取得させることを予定し、右融資金の返済のための月賦相当額を同人から原告に支払わせ、これをそのまま組合に対する返済に廻し、その後、組合による繰上償還等の決議を受けて、鍋島和子に確定的に所有権を移転することとし、同人に指示して組合に対して原告の借入残金額を直接返済させ、組合から鍋島和子に対する所有権移転登記を経由したことかが明らかであり、これらの経緯に加えて、中小企業等協同組合法上の協同組合として、組合が組合員以外である組合員の従業員と直接融資その他の取引をすることについては制限があることをもあわせ考慮すると、本件各不動産の所有権は組合から原告へ一旦移転し、しかる後に原告から鍋島和子に移転したもので、前記所有権移転登記経由もいわゆる中間省略登記の趣旨でなされたものと解するのが相当であり、原告は、本件各不動産について地方税法七三条の二第一項の「不動産の取得者」に該当するものと認められる。

被告は抗弁に対する認否第二段のとおり主張し、なるほど、前記認定の経緯からすると、本件各不動産を含む前記四九区画の土地建物については、組合及び原告ら組合員が元来組合員の従業員に持ち家を取得させる方針の下に行動しており、自ら住居し使用するなどの意思を有していなかったことは容易にうかがわれるが、だからといって、直ちに「不動産の取得者」となり得ないものではない。組合と原告ら組合員との間の不動産譲渡予約契約の存在や中小企業等協同組合法上の制約からも、原告ら組合員は、組合から最終的に原告に組合員の従業員へ不動産の所有権を移転するについて、中間の取得者となったものと認めるほかはない。また、組合から組合員へ、組合員から従業員へそれぞれ不動産の所有権移転をすれば、不動産取得税がそれぞれの移転毎に課税されることとなるかもしれないなどといった問題意識が、当初より組合及び原告ら組合員らにあった形跡はなく、原告らにとって、今回の被告による本件賦課決定処分は予想外のことであったやにはうかがえるが、後日税法上の問題性が意識されるようになったからといって、遡って「不動産の取得者」としての地位が左右される筋合いのものでもない。

また、被告は抗弁に対する認否第三段のとおり主張するが、地方税法の諸規定中には、同法七三条の二第一項の「不動産の取得」に不動産取得の意思、対価の負担及び所有権移転登記経由の三要件を必要とするとの趣旨のものは見当たらないところであり、原告指摘の最高裁判所昭和四八年一一月一六日第二小法廷判決(民集第二七巻第一〇号一三三三頁)もその内容自体に照らしても原告主張のような趣旨の判例と解する余地はない。かえって、右判例は、「不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであって、不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することにより得られるであろう利益に着目して課せられるものでないことに照らすと、地方税法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かには関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものと解するのが相当である」と明記しており、その趣旨からすると、前記認定の諸事情のような場合、すなわち、最終的には組合の不動産を原告ら組合員の従業員に取得させる意図の下になされた取引ではあったが、原告ら組合員を介在させる必要があったことから、便宜原告に組合員を中間取得者とした場合にも、当然に、原告ら組合員は「不動産の取得者」に該当するものと解すべきである。被告の右主張は独自の見解であって、到底採用の限りではない。

なお、被告は抗弁に対する認否第四段のとおり錯誤乃至解除を主張するが、前記認定の経緯からして、組合と原告ら組合員との間の不動産譲渡予約契約は融資とともに中小企業等協同組合法や組合の事業目的に則ってなされたものであることは明らかであり、税法上の問題点についての認識不足があった形跡はうかがわれるが、認識不足は錯誤とは別問題である。また、組合総合における不動産の譲渡代金の一括返済及び従業員に対する所有権移転登記手続を行う旨の決議、組合の解散、清算移行が、不動産譲渡予約契約を失効させ、解除する趣旨でなされたものとは、到底解されないところである。

三  結論

以上によれば、原告は組合から本件各不動産を取得したものと認められ、本件賦課決定処分は適法である。

よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 白井俊美 藤原道子)

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